政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群は、いわゆる「サイバーセキュリティフレームワーク」または「サイバーセキュリティガイドライン」と呼ばれる形で公開されルールやプロセスを定義する複数の文書です。
これらは、政府機関や公共部門、民間企業などがサイバーセキュリティに関する方針や実践に従うための指針や基準を提供する文書です。
以下に、その概要とそれを知ることの重要性を伝えつつ、令和5年(2023年)7月の改訂概要とそのインパクトについて整理してお伝えします。
サイバーセキュリティ対策の統一基準群の概要
サイバーセキュリティ対策の統一基準群は、次のような要素で構成されます。
(1)セキュリティポリシーとガイドライン:サイバーセキュリティの方針や基本的なガイドラインが含まれています。これは、組織や政府機関がセキュリティに関する取り組みを方向付けるための重要な文書です。
(2)リスク評価と脆弱性管理:サイバーリスクの評価方法や、脆弱性管理のアプローチについて説明されています。組織は組織内のリスクを理解し、対策を講じるためにこれらのチェックを行いその結果を受けて仕組みやプロセスの改善に活用します。
(3)アクセス制御と認証:システムへのアクセス制御や認証の方法についてのガイドラインが含まれています。これは、不正アクセスを防ぎ、権限を適切に管理するために重要です。
(4)ネットワークセキュリティ:ネットワークインフラスのセキュリティに関するガイドラインが含まれています。ファイアウォール、侵入検知システム、暗号化などの技術的対策が含まれます。
(5)セキュリティ意識教育とトレーニング:組織内でのセキュリティ意識向上のための教育とトレーニングの方法が整理できます。従業員がセキュリティに対する認識を高めないと、特定の組織やメンバだけでサイバー攻撃リスクを抑止することは困難です。
(6)セキュリティインシデント対応:セキュリティインシデントが発生した場合の対応手順や報告プロセスについての情報が含まれています。迅速で適切な対応がインシデントの被害を最小限に抑えるのに役立ちます。
(7)コンプライアンスと規制遵守:サイバーセキュリティ関連の規制や法的要件に対応するための指針が提供されています。これは、法的リスクの軽減には必要です。
(8)監査と評価:セキュリティ対策の効果を評価し、改善するための監査手法や評価基準が記載されています。
サイバーセキュリティ対策の統一基準群を知る重要性
サイバーセキュリティ対策の統一基準群を知ることのメリットを以下に説明します。
(1)セキュリティ向上:統一基準群はセキュリティ対策のベストプラクティスを明示します。これを知ることで、組織や政府機関はセキュリティが目指すゴールを関係者が共有できます。そのゴールを目指すことがサイバー攻撃に対する防御力を高めることにつながります。
(2)リスク軽減:サイバーセキュリティ基準を守ることは、セキュリティリスクを軽減するのに役立ちます。組織がこれらの基準に従うことで、潜在的な脅威に対する備えを強化できます。
(3)法的要件の遵守:多くの国や地域で、特定のセキュリティ基準への遵守が法的要件とされています。統一基準群を知ることで、法的規制に対応し、法的なリスクを軽減できます。
(4)セキュリティ意識向上:セキュリティ基準は、組織内でのセキュリティ意識を高めるのに役立ちます。従業員がサイバーセキュリティに関する教育を受け、対策を実践することが重要です。
(5)効果的な対応:セキュリティインシデントが発生した場合、統一基準群に記載されている対応手順やプロセスを知っていることは、効果的な対応を可能にします。迅速な対応は、攻撃からの回復時間を短縮し、被害を最小限に抑えるのに役立ちます。
(6)ベンダーやパートナーとの協力:サイバーセキュリティ基準は、ベンダーやパートナーとの契約や協力関係においても重要です。共通のセキュリティ基準を共有することで、サプライチェーン全体でのセキュリティを向上させることができます。
(7)リーダーシップと信頼性:政府機関や組織がサイバーセキュリティ基準に従うことは、リーダーシップと信頼性を示すものとなります。ステークホルダーや顧客からの信頼を築くために、セキュリティに対する真剣な姿勢を示すことが重要です。
(8)情報共有:サイバーセキュリティ基準は情報共有の基盤ともなりえます。組織間で共通の基準を持つことで、セキュリティ情報の効果的な共有が促進され、新たな脅威に対する迅速な対応が可能になります。
(9)効率性と経済性:基準に従うことは、効率性と経済性の向上にも貢献します。適切なセキュリティ対策を実施し、セキュリティインシデントのコストを削減することができます。
(10)国家安全保障:政府機関にとっては、サイバーセキュリティ基準は国家安全保障にも関わります。サイバー攻撃は国家安全保障に深刻な脅威をもたらすことがあるため、政府機関はその対策を強化する必要があります。
サイバーセキュリティ対策の統一基準群を知る重要性の総括
政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群は、組織や政府機関がサイバーセキュリティに取り組む際の指針となり、セキュリティを向上させ、リスクを軽減し、法的要件を遵守し、信頼性を高めるのに役立ちます。
また、セキュリティに関する知識を共有し、セキュリティ文化を醸成する重要なツールとなりえます。
組織や政府機関は、これらの基準に従い、サイバーセキュリティに取り組むことで、サイバー攻撃からの保護を強化できるようになります。
令和5年の改訂ポイント5点
今回の改訂は、統一基準群の考え方は踏襲しつつ、近年のサイバー攻撃によるリスクを考慮したセキュリティ強化を目指した改訂となっています。
概要をまとめたポイント原本は、下記のPDFファイル(NISCホームページ)をご参照ください。
https://www.nisc.go.jp/pdf/policy/general/kijyungun-gaiyor5.pdf
改訂1)情報セキュリティに関するサプライチェーン対策の強化
委託先に求めるセキュリティ対策、はこれまでも対策を明記してありました。今回、米国のサプライチェーン対策を参考に、情報のアクセス制御やログの取得・監視など、より具体的な事例を挙げて「契約に含めるとともに委託期間を通じた実施を求める」な表現となりました。
改訂2)クラウドサービスの利用拡大を踏まえた対策の強化
機密情報を取り扱う場合のクラウドサービスの選定基準を明記しました。具体的には「ISMAPクラウドサービスリストから選定すること」と明記しました。これはクラウドサービス利用者にはチャンスです。ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)で評価されて基準をクリアすれば、国や地方自治体が利用するクラウドの選択肢に入ることができます。
改訂3)ソフトウェア利用時の対策の強化
運用時の情報セキュリティ水準維持のための対策継続を前提とした申し合わせ実施を必須としました。これまで参考の位置づけでした。
改訂4)サイバーレジリエンスの強化や脅威・技術動向を踏まえての対策の強化
サイバー攻撃の被害を念頭に置いたバックアップなどの情報システム復旧対策を講じるよう明記されました。サイバー攻撃被害時の対策機能がある復旧サービスを手掛ける企業にとっては、ビジネスチャンスが拡がります。
改訂5)横断的な情報セキュリティ対策の強化と情報システムの重要度に応じた対策の確保
組織横断的な情報伝達や収集の体制整備が求められています。また、「システムの重要度ランク付けと高ランクなシステムへの重点的なサイバー攻撃対策を求める」ことが明文化されました。これまでは”府省庁の判断で対策のバラつきある”可能性を記載するにとどまっていました。
まとめ
一般企業にとっては先行で求められていることなので、新たな対策としての目新しさはないように見受けられますが、政府がその対策の必要性を認めた、とも言えます。
未だ未実施な点があることを確認した企業があれば、政府と同期してセキュリティ対策のレベルアップを図りましょう。
以上です
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